農業はここ数年で大きく様変りしている。農家を取り巻く環境の変化が加速しているためもある。でも、農業に携わるそれぞれの農家が変わろうとしなければ実現するはずもない。ズバリ、キーワードはコンピュータ。農業の分野でも上手に使って販路拡大を図ったり、消費者とのコミュニケーションを拡げたりと使い道はさまざまだ。ここでは、インターネットをフルに使って新たな展開をしている、または本業の傍らでSOHOとしての自分を活かしている、そんな農業従事者を紹介しよう。
地元密着SOHOは桃と葡萄の農園主
ハーヴェストホーム
山梨県東八代郡御坂町のとある桃園で摘葉という作業(桃が色付くのを妨げる葉を摘み取る作業)をしているのは、小河内英紀さん37歳。一見農家の若旦那。事実、農家の若旦那には違いないのだが、彼は、もう一つの顔を持っていた。
● パソコン導入で変わる農業
山梨県甲府市朝気の(有)スタンプマートの一角にある、小綺麗に片付いたパソコンデスクが彼のSOHO空間である。スタンプマートは、印鑑の販売と各種印刷物を扱う会社なのだが、小河内さんの知人であるオーナーの厚意により、デスクスペースに駐車場代を含み、月額金五千円也の格安賃貸となったそうだ。そんな環境で生まれたホームページ「ハーヴェストホーム」は、地元御坂町の桃たち、葡萄たちが主役のページである。特に、農園からの景色を写した映像には目を奪われる。春先、都会の人々は、日々更新される桃の開花情報を頼りに御坂町を目指し、桃の花見にやって来るという。
農繁期は農業主体の生活を送り、インターネットを活用したビジネスは、農産物の直販という形で日本全国へ向け販路を拡大中だ。
一方その傍ら、彼にはもう一つの大切な仕事がある。地元農家へのパソコンおよび顧客管理システムの販売と、そのサポートを含んだサービスである。農家とパソコンとは意外に思われるだろうが、地元の桃園、葡萄園の園主は、その販売管理システムを使い、宅配便の宛名書き、顧客情報の管理からダイレクトメールに至るまでをこなし、固定客とリピーターの獲得を実現している。パソコンと小河内さんは、地元観光農園にとり、なくてはならない存在だ。
● 農業との兼業SOHO
小河内さんも、いきなりSOHOを始めた訳ではない。東京で学生時代を過ごし、農業に従事するまでに会社勤めの経験がある。会社に勤めた10年間の一期一会を今なお大切にしている。また、その間にコンピュータと出会い、現在のスキルを蓄積した。退職したのは、会社という組織に対し、精神的な不釣り合いを認識したからだという。
農閑期、小河内さんにはさらにもう一つの仕事がある。企業のホームページ制作と、年間契約によるホームページのメンテナンス作業である。
ホームページ制作のきっかけとなったのは、日頃行き来のある観光農園の紹介だったという。山梨県東山梨郡勝沼町は、日本有数の葡萄の産地であると共に、ワインのメッカでもある。勝沼町には、約30社のワイナリーが軒を連ね、それぞれが、個性豊かなワインの醸造に力を入れている。その中の一社から、口コミによるオーダーが入った。最初は、パソコンの導入とインターネットの接続のみの商談だった。しかし、小河内さんのホームページを見ているうちに、自社のホームページ開設の意志を持ち始め、当然ながら小河内さんへのオーダーとなった。
制作費は、A4出力1ページ当たり5000円という格安で請け負った。
「とにかく6〜7ページ程度を2週間で仕上げて、ネットに上げちゃえー」
というのりで始まったというが今では、20ページ以上に増え、ページ上でワインの直販を始めるまでに至る。そして現在、数社のワイナリーと年間契約を交わし、売り上げに貢献している。
ホームページを制作するに当たって、心掛けていることを尋ねてみた。
「テクニックを訴えるようなGIFのアニメは嫌い。見ていて落ち着く、ハートフルなページ作りを心掛けています。」
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カントリーSOHOという生き方
7月11日、小河内さんは、朝5時から農園で桃の収穫作業を始めた。約2時間を費やし150kgほどの桃をワゴン車に積み込み、東京へ向け中央高速を走る。世田谷のホタル祭りに出店するためである。祭りへの参加は今年で5回め。翌12日も同じ行程で桃の販売に向かうという。学生時代の友人の父親が祭りの実行委員をしており、その縁で毎年出店している。小河内さんの人柄からか、ホタル祭りの顔になりつつある。タオルを鉢巻きに、人懐っこい笑顔で桃を売る。愛情を一杯注ぎこんだ300kgの桃はたちまち完売となった。
お客さんに渡す桃を大事そうに包みながら、小河内さんが言った。
「春先、私のホームページで桃の花情報を見た人が、御坂に来て花見をしたらしいんだけど、その人からメールが来てね。あの時、綺麗に咲いていた桃の花は、今頃、美味しい桃の実になっているんでしょうね、ってサ。」
自分の仕事がSOHOであるという意識はない、自分はアナログ人間だと言い切る。そんな「ハーヴェストホーム」のハートフルなオーナーに、カントリーSOHOという生き方を見たような気がした。
地元を愛しそして貢献するカントリーSOHOに心からエールを送りたい。