他人と会ったり、話をしただけで顔が赤くなる。そんな自分を意識すればするほど、ますます赤面し、言葉もつかえる…。対人恐怖症の一種だが、実は山本さんも二十代の頃、このことに深く悩んだ一人。その悩みは、とりあえずは仕事を通じての人間関係の広がりの中で、徐々に消えていった。
フリーのグラフィックデザイナーとして活動していたある日、友人から心理療法で赤面や対人緊張が改善できるという話を聞く。当時はひどい赤面症で困っていたわけではなかったが、その療法室を訪れてみた。心理カウンセリングとの初めての出会い。いまから6年ほど前のことだ。
「最初はまったくの好奇心だったんです。昔、自分が悩んだことを専門家はどう解決してくれるんだろう…という感じかな。とくに暗示を与えて無意識の世界に導き、症状を取り除く催眠療法に関心を覚えました」
療法室に通っているうちに、心の中に潜んでいるこわばりがほぐされ、癒されていく自分を実感する。同時に、人間の精神的な世界をケアするカウンセリングという仕事にも興味を持つようになった。
デザイナーの仕事を受ける一方で、いくつかの養成講座に通い、カウンセリングの概論から基礎技術、自律訓練法や自己催眠法など、さまざまな技法を学ぶ。やがて、労働省認定の産業カウンセラーの資格を取得。その後、かつて自分が通った療法室で一年間助手として働いている時、突然講演の依頼があった。
「自閉症や引きこもり(家に閉じこもって外へ一歩も出ない)の子供たちを抱えるご両親がたくさんいる前で、約一時間半、『神経症と催眠療法』について講演したんです。赤面症に悩んでいた、この私がですよ。それをなんとかこなしたことで、カウンセラーとしてやっていける自信ができたかな」
自宅近くのビルの中に「たとえヒマでも、なんとか一年間は食べていける
くらいの蓄えを用意して…」、20m2にも満たない小さなカウンセリングルームを開いたのは、昨年の2月。ちなみに、講演を聞いてくれた家族の方の多くが、クライアント(カウンセリングの相談者)として「山本心理療法室」を訪れたという。
カウンセラーという仕事を始めるにあたって山本さんが心がけたのは、クライアントと同じ目線で語り、接することだった。だから白衣は着用しないし、ことさらな指導用語は絶対に使わない。型にはまったカウンセラーにはなりたくないからだ。
相談は予約制で、月曜から土曜までの午前十時半から午後九時まで受け付け、リラクセーションの心地よい音楽が流れる中、お茶をすすめながら一人一時間前後のカウンセリングを行う。訪れるのは不登校に悩む中学生、どうしても赤面してしまう女性、家族の中で孤立していると感じる主婦や父親など、さまざま。時間が長いので、たくさんの人を対象にしているようにみえるが、一日にカウンセリングできるのは3人まで。相手の話を聞き、心に働きかけ、目には見えないこわばりを解き、コトバを通わせる。これには大変なエネルギーがいるそうだ。「だから3人まで。合間の時間は本を読んだり、友人と会ったり、結構自由に過ごしている」とか。
デザイナーからカウンセラーへの転身だが、性格的にも能力的にも自分に合っているかな、と自己診断。クライアントが相談中に辛かったことを思い出し、耐えきれなくなって思わず大声で泣き出した時、山本さんも一緒になって涙を流す。
「人間関係で傷ついた人の心を癒すんは、結局のところ、人間関係でしかないねん。クライアントにどこまで近づけるのか。カウンセラーって、人間臭いのが一番大事やと思うわ」
突然、大阪弁が出た。やわらかく、温かい言葉だった。